GMTが好きだ。二本目の時針が盤面を一日一周するというだけの機能だが、あれが付いているだけで時計の顔がひとつ豊かになる気がしている。時差のある相手と仕事をしているわけでもないのに、である。
グランドセイコー スポーツコレクション SBGE253。定価891,000円(税込)で、量販店の実売も基本的に同額。中身はキャリバー9R66、スプリングドライブのGMTだ。ケースは横40.5mm・厚さ14.7mm、20気圧防水、パワーリザーブ約72時間。
結論から書くと、欲しい。ただし今は買わない。理由は値段ではなく、裏蓋にある。
この記事について:筆者はこの時計を所有していません。2026年8月に量販店でガラス越しに実機を見た印象と、メーカー公表値・販売ページの情報をもとに書いています。手に取ってはいないため、装着感・精度・耐久性については触れていません。
スプリングドライブでGMTをやる、という一本
スプリングドライブというのは、ぜんまいで動きながらクォーツ並みの精度を出すというグランドセイコー独自の機構だ。公表精度は平均月差±15秒。機械式の日差を月単位で見ているようなもので、数字の桁がひとつ違う。
その9R系にGMT機能を載せたのがキャリバー9R66で、SBGE253はそれをスポーツコレクションの意匠でまとめた一本にあたる。24時針とパワーリザーブ表示を持ち、ベゼルにも24時間の目盛りが入る。
実物はどう見えたのか
ガラスケースの向こうを見てまず思ったのは、思っていたよりおとなしいということだった。
スポーツコレクションと聞いてゴテゴテしているのではと多少身構えていたのだが、盤面の構成は素直だ。インデックスがあり、針があり、日付があり、パワーリザーブの目盛りがある。要素は多いのに、うるさく見えない。グランドセイコーの針とインデックスの磨きが、盤面の情報量を整理してしまっているのだと思う。フォーマルな席に着けて浮く顔ではない。むしろフォーマルな場にこそ合うといった具合だ。
そこにGMT針が一本、色を変えて入っている。これが良い。
盤面全体が端正であるぶん、この一本だけが「ここは遊びです」と申告しているように見える。実用の機能でありながら、この時計では装飾として働いている。私がGMTを好きなのは、たぶんこういうところだ。
ベゼルもいい。24時間の目盛りが入っているのだが、目盛りの主張が強すぎない。ジルコニア・セラミックスという素材のせいか、光の乗り方が金属とは違って、重たく落ち着いて見える。ケースの14.7mmという厚さは数字にすると立派だが、ベゼルがその厚みを受け止めているぶん、腰高な印象にはなっていなかった。
不満はひとつだけ。裏蓋がスクリューバックで、中が見えない。
SBGE253のスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品名/型番 | グランドセイコー スポーツコレクション SBGE253 |
| メーカー/コレクション | セイコーウオッチ/Grand Seiko Sport Collection |
| ムーブメント | キャリバー9R66(スプリングドライブ・自動巻) |
| 精度 | 平均月差±15秒(日差±1秒相当) |
| パワーリザーブ | 最大巻上時 約72時間 |
| 防水性能 | 日常生活用強化防水 20気圧 |
| 風防 | デュアルカーブサファイア(内面無反射コーティング) |
| ケース素材 | ステンレススチール |
| ベゼル素材 | ジルコニア・セラミックス(※価格.comのスペック欄は「ステンレス」表記。公式を優先・要確認) |
| ケースサイズ | 横40.5mm × 縦48.7mm × 厚さ14.7mm |
| 重量 | 172g |
| ラグ幅 | 20mm |
| バンド素材/クイックリリース | 公式に記載なし(外装はステンレススチール) |
| 文字盤 | 公式スペック欄に記載なし |
| 裏蓋 | スクリュー裏蓋(シースルーバックではない) |
| 機能 | GMT(24時針)、パワーリザーブ表示、カレンダー連動時差修正、耐磁、ルミブライト |
| 希望小売価格(税込) | 891,000円 |
| 実売参考価格 | 891,000円(2026年8月20日時点・価格.com最安)※変動あり・要確認 |
| 発売日 | 公式に記載なし |
| 公式サイト | https://store.grand-seiko.com/products/sbge253 |
数字の中で一番はっきりしているのは精度だ。平均月差±15秒は、機械式時計を何本か持っている人間からすると別世界の数値である。ぜんまいで動くものが、ひと月かけて15秒しかずれない。
パワーリザーブ約72時間も現実的な数字だ。金曜の夜に外して月曜の朝に着けても止まっていない。これは日常の使い勝手にそのまま響く。
そして20気圧防水と40.5mmという径。この二つを見る限り、これは「スポーツコレクション」を名乗ってはいるものの、実際には毎日着けられる一本として設計されている。
価格をどう見るか
891,000円をどう思うか、という話をしないわけにはいかない。
グランドセイコーは、以前のように量販店で値引きされる時計ではなくなった。だから「セールを待つ」という戦略が使えない。これは悪いことばかりではなくて、いつ買っても同じ値段だという安心はある。買い時を読む労力がまるごと消える。
問題は、その定価そのものが上がり続けていることだ。ここ数年、国産の高級ラインは軒並み価格を改定している。待てば安くなるどころか、待てば高くなる。「じゃあ今すぐ買うのが正解じゃないか」と言われそうだが、おっしゃる通りである。理屈の上ではその通りだ。
ただ、私の判断軸は「91万円が高いか安いか」ではない。この一本に91万円出して、自分が納得できるかだ。9R66の精度と、あの磨きと、GMT針の一本。そこまでは納得の側にある。
納得できないのが裏蓋だ。この価格帯の機械式で、中身を見せない設計にしている。スプリングドライブは秒針が滑るように動く、その動きを生んでいる機構そのものが売りの時計である。それを買って、自分では一度も見られない。防水20気圧のために堅牢な裏蓋が要るという理屈は分かる。分かるが、91万円払って「見えません」と言われると、素直に「はい」とは言いにくい。
別の選択肢
891,000円という額で、あるいはその手前で、GMTをどう手に入れるか。三本並べておく。
グランドセイコー SBGM221(671,000円)
同じグランドセイコーの機械式GMT。キャリバー9S66でパワーリザーブは同じく約72時間、そして裏蓋がシースルーバックだ。サファイアガラスを6本ねじで留めてあり、9S66が動いているところがそのまま見える。私がSBGE253に対して唯一こぼした不満が、22万円安い側で解決している。
もちろん代償はある。防水は日常生活用に落ち、バンドはこげ茶のレザー、ケースは39.5mmでエレガンスコレクション寄りの顔になる。スプリングドライブの平均月差±15秒も手放すことになり、精度は機械式の日差+5秒〜−3秒(静的)に戻る。毎日雑に着ける一本ではなくなる代わりに、中身が見える。重量88gという数字も、172gのSBGE253とはまるで違う世界だ。
チューダー ブラックベイ GMT(M79830RB/定価731,500円)
スイスの機械式GMTで、200m防水のスポーツモデル。同じ「潜れるGMT」という土俵で、SBGE253より20万円ほど安い。実売は59.8万円あたりから見かける(※中古・並行を含む相場)。裏蓋は塞がっているので、中身が見えない点はSBGE253と変わらない。国産の精度と仕上げを取るか、スイスの機械式とブランドを取るかという、まったく別の軸の選択になる。
買うか、買わないか
購入検討度:★★★★★★★☆☆☆(7/10)
7点というのは、我ながら中途半端な数字だと思う。だが正直なところだ。
加点は、9R66という機構そのものと、端正な盤面にGMT針が一本入っているというあの配分。減点は裏蓋がひとつ。そしてもうひとつ、定価が上がり続けているという事実が、「急がないと」という気持ちと「乗せられている」という気持ちを同時に起こす。この落ち着かなさが、点を伸ばしきれない理由になっている。
まとめ
グランドセイコーのスプリングドライブGMTは、盤面の完成度で言えば文句のつけようがない一本だった。GMT針の一本が、端正な顔に一箇所だけ遊びを作っている。あの配分は見に行く価値がある。
その上で、私が91万円を出しきれない理由が裏蓋だというのは、たぶん時計好きの側の勝手な理屈である。それでも、見えないものに金を払う気にはなれない。手に取れる機会があれば、また見に行く。
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